サスティナブルな食卓が当たり前な世の中を目指したい・西村千恵さん<前編>

第七回目は、食の楽しさを提案するプロジェクト「ファームキャニング」を主宰する西村千恵さん。4歳と7歳になる2児の母でもある西村さんの活動や始めたきっかけ、ポジティブな思考の原点などを伺いました。

“消費する場所”ではなく、“生み出す場所”を作りたかったんです。

ー 西村さんが主宰されている「ファームキャニング」について教えてください。

西村さん:

「とにかく楽ちん」「手作りで安心できるもの」「なるべく無農薬」「農家さんも嬉しい」をコンセプトに、瓶詰めスクールの開催や化学調味料・保存料も使わない手作りで無添加の瓶詰めの販売を中心に活動しています。スクールでは、畑仕事をしたり、獲れた野菜で瓶詰めを作ったりと実践を通して楽しめるプログラムになっています。

ー 都会に住んでいると、畑仕事や収穫はなかなか体験できないので、楽しそうですね。西村さんは東京のご出身だと伺いましたが、どんなきっかけで逗子での暮らしを始めたのですか?

西村さん:

前職ではオーガニックカフェの立ち上げから運営などを行っていて、子育てをしながら休みなく働く毎日でした。2人目の妊娠を機に、なんとなく東京での暮らしに違和感を感じるように。幸い主人も自由がきく仕事だったこともあり、8年間働いたカフェを辞めて思い切って移住しました。

ー がらりと生活が変わりましたね。この畑はどのように管理されているのですか?

西村さん:

ここはたくさんの方がいて、さまざまな形態で関わって、畑を管理しています。私も友人の紹介がきっかけでお手伝いをするように。畑の他にニワトリやヤギもいますし、ニホンミツバチの巣箱もあるんですよ。キッチンもあり、私のスクールもここで行いますし、他にイベント等も開催されます。

ー 西村さんが「ファームキャニング」を立ち上げたのは、どのようなきっかけからですか?

西村さん:

農園側から、ここを“消費する場所”ではなく、何かを“生み出す場所”として使いたいから、何かいいアイディアはないかと相談を受けたんです。いずれは自分で何か仕事を作りたいと思っていたこともあり、じゃあまず私が何かをやってみようと会社を立ち上げることにしました。

ー それが今の活動に繋がるのですね。どんな思いがありましたか?

西村さん:

東京に住んでいた時、もっと緑の中にいたいのに、もっと子どもを自然の中で遊ばせたいのに、でもできないという、理想と現実の乖離にストレスを感じていました。「本当はもっとこうしたいのに…」って誰にでもありますよね。でも移住はできないし目の前のことで精一杯なのが現実です。それが叶う場所と一緒に楽しむ仲間やコミュニティを作りたいと思ったんです。

瓶詰めの販売で、生産者の方々を少しでもサポートできるように頑張りたいんです。

ー 場所とコミュニティがあれば、一人でも気軽に通えそうですね。瓶詰めはどんな経緯で作ることになったのですか?

西村さん:

生産者との交流も広がる中で、時間と労力、お金をかけて育てた野菜たちが規格外を理由に大量に破棄されていることを知り放っておけなくて。私は栽培することはできないけど、違う側で何かサポートができればと思い、規格外の野菜を買い取って瓶詰めを作り始めました。

ー なるほど。瓶詰めは保存がきくし馴染みのあるものなので、生活にも取り入れやすいですよね。

西村さん:

アメリカでみつけたホームキャニング(自家製瓶詰め)の本がヒントになりました。ピクルスやジャムはすでにたくさん出回っているので、簡単に野菜を使った料理にアレンジできる瓶詰めに。生産者が、できた野菜が虫食いや規格外ならあそこに持って行こうと思えるような、受け皿になれたらと思っています。

ー スクールでも、自分で収穫した野菜で瓶詰めの実習もあるのですね。

西村さん:

はい、スクールの最終回ではそれぞれレシピを考えて発表してもらいます。瓶詰めは自宅で蓋をあけた時に「あの時雨だったよね」「あの野菜を使ったよね」など、畑での体験を思い出して話も広がると思うんです。野菜を収穫して終わりではなくて、「畑での体験と時間も一緒に瓶に詰めて、日常に持ち帰ろう」というメッセージも込めて、「ファームキャニング」というプロジェクト名をつけました。

ー 瓶詰めは販売もされていますが、どんな種類がありますか?

西村さん:

販売を始めてからはちょうど一年くらい。バーニャカウダソースやカレーペースト、マリネなどベースはありますが、旬の野菜で作るのでその都度組み合わせも変わります。
一番人気なのは、葉野菜をニンニク醤油ごま油で炒め煮にした「アオナシゴト」。例えばひき肉に混ぜればすぐ餃子のタネになるし、冷やご飯と卵があればチャーハンにも。切る作業がないので洗い物も減って本当に楽ちんです。
あとは、野菜と塩麹で作ったバーニャカウダソースの「ベジバーニャ」、自家製味噌を使ったディップの「オーマイミソ」もおいしいですよ。
月ごとに、旬の野菜を使ったものをリリースしています。オンラインショップでも販売しているので見てみてください。
オンラインショップ:https://shop.farmcanning.com

忙しい毎日でも、手間をかけずにおいしい、野菜を使ったごはんを味わってもらいたい

ー 簡単に作れそうなのに、とてもおいしそうですね。忙しいと料理をするのも億劫になりますが、これがあると料理をしようという気持ちになりそうです。

西村さん:

疲れている時や忙しい時でも、できるだけ楽ちんにおいしいごはんを食べてもらえるように、ちょっと手を加えるだけで完成するように考えています。男性の一人暮らしでも使って欲しいから、デザインはニュートラルにしました。

ー アイディアが素晴らしいですね。西村さんの人とは違う新しい見方や発想は、どのような考えから生まれるのですか?

西村さん:

人と同じことだと、どうしても比べられてしまうので、せっかく何か表現するなら人と違うことでアウトプットしないともったいないなと思っています。できるだけユニークなことを楽しんでやりたいですね。幼い頃からそういう考えですが、父親が好奇心旺盛な性格だったので、似ているかもしれません。

ー 畑での体験を日常でも楽しめるのは素敵ですね。瓶詰めの制作で苦労したことはありますか?

西村さん:

最初の一年はスクールが主で、瓶詰めはひたすら試作の日々でした。食材によって保存がうまくいくポイントをみつけるのに試行錯誤しました。作って一定期間置いてみないとわからないし、すぐに腐ってしまうものもあって、そのたび家中が臭くなって家族からもブーイングでした(笑)。

ドイツ留学、オーガニックカフェでの経験から、食の世界にどんどん引き込まれていきました。

ー オーガニックや食へ関心を持ったのはいつ頃からですか?

西村さん:

食への関心は大学生の頃から。その後ご縁がありオーガニックカフェの運営に携わったことで、どんどん引き込まれていきました。最初にオーガニックに触れたのは高校時代の留学。留学先はアジア人がほとんどいないドイツの田舎で、ホームステイ先のお母さんが、元ヒッピーでベジタリアン、自然食のお店で働いている人でした(笑)。

ー 初めての留学で刺激的なホームステイ先でしたね。どんな生活でしたか?

西村さん:

とても優しい人でしたが、食事もベジタリアンフードで、ゴミの仕分けや電気の消し忘れにもとても厳しくて、自分が責任を持って地球と関わりなさいと教わりました。都会でしか暮らしたことがなかった私には、すべてがカルチャーショックで。でも、質素だけどとても満たされた幸せな暮らしだなと感じましたね。

ー ヨーロッパは、環境に対して意識が高い方が多い印象ですよね。

西村さん:

ヨーロッパは、環境のことを考えてオーガニックなものを選ぶ習慣が根付いてるように感じました。自分の健康のためだけでなく、生産者の生活や健康のため、土壌のためなど、まず社会的なことを考えていますね。

ー 帰国してから、意識に変化はありましたか?

西村さん:

まだ高校生だったので、帰国後はただおいしいご飯にホッとしました(笑)。でも電気の付けっ放しなどが気になるように。ケチではなくエネルギーの倹約という考え方なんですよね。

ー 今後どんな活動をしたいなど、展望はありますか?

西村さん:

デンマークのコペンハーゲンでは、15年前から学校と病院で給食のオーガニック化が図られ、現在では学校給食のオーガニック率は約9割を達成していると聞いて、驚くと同時に日本でもやれるかもしれないと思いました。大きな規模ではまだ難しいかもしれませんが、小さな規模から少しずつ。何十年かかるかわからないけど今後の大きな展望の一つです。

西村直子さん

西村千恵さん
(にしむら・ちえ)
「ファームキャニング」代表。「畑を日常に」をコンセプトに、畑作りから収穫物を瓶詰めにする年間スクールを主宰。またB級品の対象になる野菜を使い”楽ちんオーガニック”な瓶詰めを手作り、無添加で販売中。各地では生産者向けに6次産業支援や加工品の講座、フードロスをテーマにしたイベントなども開催している。逗子在住、2児の母。http://www.farmcanning.com

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