花がくれたワクワクする世界を、たくさんの人に届けたい・前田有紀さん<前編>

第37回目は、フラワーアーティストの前田有紀さんにご登場いただきます。アナウンサーとして10年間勤務した後、イギリス留学や都内花屋での修行を経て独立。フラワーアーティストとして多方面で活躍されている前田さんに、転職のきっかけから現在の活動について、また仕事で大切に考えていることなどについてもお話を伺いました。笑顔で生き生きと仕事も暮らしも楽しむ姿が印象的な前田さん。その秘訣は、ワクワクする気持ちや自分らしさを大切に想うことにありました。

自分らしく自然と関わる仕事がしたいと、転職を決意

ー 前田さんが、アナウンサーから現在のフラワーアーティストに転職したきっかけや想いについて教えてください。

前田さん:

子どもの頃から自然が大好きで、アナウンサーとして10年間テレビ局で勤務していましたが、そんな中で「何か自然に関わるお仕事がしたい」という気持ちは漠然とあったんです。それでもとても忙しく充実していたのですが、深夜に出勤したり、明け方まで収録をしたり、自然の流れとは違うバラバラの時間帯で生活をしていたので、時折、自然が恋しくなるタイミングもあり、もっと自分らしく自然に関われることがないかと思い始めたのが転職のきっかけでした。

ー 退社後は、イギリスへ留学されたそうですね。実際イギリスへ行っていかがでしたか?

前田さん:

イギリス・ロンドンで花の勉強をしてから、コッツウォルズ・グロセスター州で見習いガーデナーとして働きました。ロンドンなどの都会でも地方でも変わらず、人と自然の距離が近いように感じました。年配の人も若い人も男女関係なく、花やグリーンなど自然なものに対する愛に溢れているなと感動しました。私が住んだ街では、週末は家の庭仕事をするのが楽しみだと話す方や、ハーブティーの作り方に詳しいガーデナーも多く、植物と寄り添って暮らしているように見えました。

ー その頃にはどんな風に花の仕事をしたいと考えていたのですか?

前田さん:

イギリスでは、都会でもベランダに植物を置いたり、外壁に植物を添わせるように育てたりする方も多く、花屋にも頻繁に人が出入りしているのをみかけました。自分もそうでしたが、日本の都会で忙しく暮らしている人たちは、自然に目を向ける機会も少なく、余裕もないですよね。そんな人にも、私がイギリスで見た、“花と寄り添う暮らし”を届けたくて、花の仕事を始めました。

花がない場所にも花を届けたい。移動花屋〈gui〉をスタート。

ー 帰国後都内のフラワーショップで働かれていたとか。それから独立されたのですね。

前田さん:

東京・自由が丘にあるフラワーショップ「ブリキのジョーロ」で、花についてやそれを仕事にするためのスキルを一から学ばせていただきました。妊娠をきっかけに独立・起業、一昨年に法人化して、今は私も含めて5名のチームで活動しています。最初は移動花屋からのスタートでした。今もそれをベースにし、都会の方々にお花を届けるためさまざまなアイディアを出し合いながら、花にまつわるデザインやクリエーションをしています。

ー 移動花屋〈gui〉の名前には、どんな由来があるのですか?

前田さん:

「gui(グイ)」とは、フランス語で「ヤドリギ」という意味です。とても面白い木で、鳥の巣みたいに違う木の枝に絡みつくように寄生して、そこで実をつけて大きく育つんです。鎌倉ではあちらこちらで見ることができますよ。そんなヤドリギみたいに、いろいろな場所に出向いて、花がない場所にも花を持って行って楽しんでもらいたいという想いを込めました。ヤドリギを飾ってその下をくぐると幸せになるという言い伝えもあるんです。お店に花を飾ってお客さんを待つだけではなく、どんどん外の世界へ花を持ち出していきたいというのを方針にしています。

「フラワーロス」を減らして、花を最後まで大切に飾りたい

ー 素敵な由来のある木ですね。前田さんのお仕事のコンセプトにもぴったりです。移動花屋以外にはどのようなお仕事をされていますか?

前田さん:

各所で行われる展示会にお花を届けたり、ディスプレイをしたり、全国各地のイベントに出店したりと幅広く活動させていただいています。また、ブランドの取り組みとして「フラワーロス」という言葉を使っているのですが、“花を最後まで飾る”ということも大事にしています。花屋では売れない花は捨てられてしまいますし、ウェディングや撮影の仕事、展示会でディスプレイした花も、一日だけで撤収することもあります。短い役目で終えてしまう花も多いので、せっかく美しく咲いた花だから最後まで大切に扱いたいと思っています。

ー きれいに咲いた花を短期間で捨ててしまうのはとても寂しいですよね。具体的な取り組みを教えてください。

前田さん:

役目を終えた花やグリーンを使って撮影し、作品として形に残したり、ドライフラワーにしてアクセサリーを作ったり、洋服屋さんとコラボしてバッグやポーチを作ったりしています。形を変えて次へ繋げていきたい、お花があったことを残していきたいと思っています。またアイスクリーム屋さんとコラボして花をあしらったアイスクリームを作るなど、ジャンルを超えて花のある暮らしを提案しています。

役目を終えた花を使った作品撮りや花を使ったアクセサリー。写真右下は、片桐花卉園さんとのコラボレーションで、 フラワーロスに対する取り組みのひとつとして、 捨てられてしまうはずだったラペイロージャの花を使用したアクセサリー。

ー 素晴らしい取り組みですね。前田さんにとって、今の仕事のやりがいはどのようなところでしょうか。

前田さん:

前職でもとてもやりがいを感じて仕事をしてはいましたが、カメラを前に仕事をすることが多かったので、その向こうを想像してもなかなかわからなかったんですよね。今は、お花を手渡しして手の温もりが届くレベルでお客さんの反応を見ることができます。お花を手にして、表情がパッと明るくなるのを見るととても嬉しいですし、かけがえのない体験をさせてもらっているなと、やりがいを感じています。

ー 前田さんがお花を選んだり、アレンジを作ったりするとき、意識していることや大切にしていることはありますか?

前田さん:

忙しい日々の中でもお花を手にすることで、少しでも自然の息づかいを感じてもらいたいと思っています。花の色や形を特に見ていて、のびのびと枝ぶりが自由なものを選んだり、グリーンを多めに入れたりと、自然の自由さのようなものを感じられることを意識しています。きちんとまっすぐに伸びた枝や茎も素晴らしいのですが、本来の自由な動きのものをプラスするだけで、一気にお花の魅力が増すような気がしています。

ー 確かに、興味を持ってもらうための工夫は、とても大事ですよね。

前田さん:

そうなんです。どんなに可愛い花をお店の中においていても、目的がない人はお店に入ってみることもしないのが現実。誰の目にも触れずに捨てられてしまうこともあるんです。それがとても寂しくて。もっと身近に花を飾る人が増えて欲しくて、移動花屋という形でたくさんの人の目に触れる場所にお花を持って行って、自分からお客さんに出会いにいきたいなと思っています。

ー 今日は、ドゥーオーガニックをイメージしてお花を選んでアレンジしていただきました。どのようなイメージでしょうか?

前田さん:

ナチュラルな色が似合うと思って、ユーカリ、アマリリス、ラナンキュラスを使いました。上質な雰囲気だけどベーシックな色味を選んでいます。アマリリスは大きくて華やかだけどいろいろな花やグリーンと馴染むんです。自分に化粧品がしっくり馴染んでいるのをイメージして、馴染みカラーでまとめてみました。

安心な道より、ワクワクする方を選んだら、全然違う未来が待っていました

ー ありがとうございます。ナチュラルで柔らかな印象の中にも、凛とした雰囲気が感じられてとても素敵です。日々お忙しいかと思いますが、家事や子育て、仕事の両立はどのようにしていますか?

前田さん:

正直両立はできていなくて、結構バタバタしています(笑)。自宅は鎌倉にありますが、花の市場もアトリエも東京なので移動が多く、市場へ行く日は朝家族が起きる前に家を出て、そのまま都内で仕事をして、夕方帰って子どものお迎えに行きます。週の半分は鎌倉にいるようにしていて、取材を受けたり、経理などの事務処理をしています。両立も完璧にはできないので、頼れるところはありとあらゆる人に頼るっていうのは大切にしています。一般的にこうだからこうしようっていう考えは取り払うようにしています。

ー 日々の生活で心がけていることやルールはありますか?

前田さん:

会社員時代よりも、AかBかを決断をしないといけない場面が多いのですが、そういう時はなるべくワクワクする方を選ぶようにしたいと思っています。以前は大きな会社に所属していたので、そこから外に出る不安は大きかったのですが、それでも止められないくらいワクワクして、次の新しい世界で輝く自分を見てみたいという気持ちの方が大きくて。不安だから今のままでいることと、新しい世界でチャレンジすること、その2つの道があったら、いろいろ考え出すと現実的な方を選びがちだけど、私はワクワクする方を選びたい。その時から今も変わらず、そうしたいと思っています。実際、ワクワクする方を選んだら、全然違う未来が待っていたので。大変なことももちろん伴うけれど、自分が選んだ道に自信を持てたし、人生を自分の足で歩んでいるという実感も持てるようになりました。今とても楽しいんです。

Photos by Yoshimi Kikuchi

前田有紀さん

前田有紀さん
(まえだ・ゆき)
フラワーアーティスト。移動花屋〈gui〉主宰。大学卒業後、テレビ朝日アナウンサーとして10年間活躍した後2013年に退社。イギリスへ留学して花の勉強をはじめる。帰国後3年間都内フラワーショップで修行後、独立して移動花屋〈gui〉を立ち上げる。現在は、移動花屋を続けながら、パーティーや展示会などの空間装飾、ドライフラワーを使ったアクセサリーやバッグなどコラボアイテムの企画制作など、花の素晴らしさを広めるため多岐にわたり活動中。

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